ミドルノートにさよなら
新作文庫部門第4位
ノミネート作品
女子校百合、音楽、香水、ミッション系――ここまで並べると、正直かなり“綺麗め青春”の匂いがする。 ところがこの作品、序盤からじわじわ嫌な汗をかかせてくる。甘い空気の中に、説明不能な違和感を混ぜ込まれる。 TSという設定も、イベント的にドンと置かれるわけじゃない。身体が少しずつ変わる。それに合わせて、人間関係も、信仰も、善意も、全部ズレていく。そのズレが、静かに、確実に、効いてくる。
甘々百合ものだと思っていた認識は、読み進めるほどに裏切られ、最終的には「これは傑作だ」としか言えなくなった。
✏️ 作品概要(あらすじ)
その純愛さえも、歪む。 これは、誰がための試練なのですか。 勝ち気で誰よりも『女の子であること』に真摯な少女、九重彩音。 気弱だけど少し意固地な少女、桜庭真白。 ふたりは、ミッション系中高一貫校、清葉女学院の片隅で密かに想いを育んでいた。 彩音は真白の声を、真白は彩音の香りを、一番に愛していた。 ふたりの世界にはふたりしかいなかった、他の誰もいらなかった。 真白は天性の歌声を持ち、彩音は真白の為にアコースティックギターで音を紡ぐ。 揃いの香水を纏って、ストリートライブをおこなうふたり。 その日も、いつも通りに終えて、いつも通りに学院に帰るはずだったのに。 真白が倒れた。 告げられる無慈悲は、一体誰が望んだのか。 「〝特発性性転換現象〟」 「桜庭真白さんは遠からず、生物学的な男性になるんです」 世界は変わる。 変わりたくないと願う想いすら、逃れ得ぬ渦に巻き込んで。 その純愛さえも、歪む。
✨ 筆者がプッシュする魅力3選
1. 「二人だけの世界」が壊れる過程が、やたらリアル
この作品のエグさは、破壊が一気に来ないところにある。 TSという重たい設定を、ショックイベントとして処理せず、日常の延長線で侵食させてくる。身体が変わる。周囲の視線が変わる。善意が増える。その全部が、二人の関係を少しずつ歪ませる。 守っているつもりの行為が、別の角度から見ると縛りになる。この構造が最後まで一貫して積み重ねられる。
2. 信仰・赦し・善意が万能じゃない描かれ方をする
ミッション系女学院という舞台が、めちゃくちゃ効いてくる。 信仰は救いの言葉として提示されるけど、それが全員を救うとは限らない。むしろ、救われる側と取りこぼされる側が、はっきり分かれてしまう瞬間が描かれる。 優しい世界なのに、苦しい。正しい対応なのに、誰かが沈む。この居心地の悪さがずっと残る。
3. 序盤の違和感が終盤で殴り返してくる構成力
中盤まで「なんか引っかかる」「腑に落ちない」と感じる描写が、終盤で一気に意味を持つ。 香水、匂い、残り香といったモチーフも、雰囲気担当で終わらず、タイトルと直結する形で回収される。 読み終えた瞬間、最初のページを思い出して「あ、そういうことか…」ってなる。読後感の余韻が素晴らしい。
✅こんな人にオススメ
- 序盤の違和感や居心地の悪さを「伏線」として楽しめる人
- 善意や正しさが必ずしも救いにならない。現実主義な人
- 読後の余韻が残る作品が好きな人
\まずは冒頭を試し読み/
